Eris Parfums Green Spell

Beautiful Italian garden on a sunny summer day
緑が揺れる ある夏の晴れた日のイタリアンガーデン

トマトの香りが好きだ。DaylesfordのVine Tomatoのキャンドルは何個もリピートしているほど大好きだし、いつかJo MaloneのGreen Vine Tomatoのキャンドルも欲しいなと夢見ている。ホームフレグランスとして取り入れると、空間がフレッシュな香りに包まれて、家に清潔感が生まれる。でも、この香りを肌で纏うとどうなるのだろう?とうっすら思っていた。

ある日、ぼんやりと街を歩きながらOn the Scent Podcastを聴いていたら、SuzyがEris ParfumsのGreen Spellを紹介していた。「トマトの葉っぱを指で潰したような、シャープでグリーンな香り」と聴いた途端、これは今すぐ試したい!とせっかち心が働いた。歩きながら、イギリスではどこで変えるのか調べたところ、Sainte Cellierというフレグランスショップで販売されていた。2mlのサンプルが£7.00だったので、即注文し、数日後に丁寧な手書きのお手紙とともにサンプルが届いた。

Eris Parfumsは、ヴィンテージフレグランスに焦点を当てた Yesterday’s Perfumesというブログを運営するBarbara Hermanによって立ち上げられたアメリカのフレグランスハウス。Barbaraは、Scent and Subversionという著書を通して、高砂香料での就業経験もある調香師のAntoine Lieと出会い、彼に自分のブランドの香りづくりを依頼する。ブランドの根底にあるのは、彼女のヴィンテージフレグランスへのリスペクトと、アニマルノートを用いた香りのバランスだ。アイデアをクリエイションするのはBarbaraで、新しいフレグランスのビジョンをファッションや映画のスチール写真、オブジェの写真などを使ったムードボードに落とし込み、それを詳しくAntonieと共有する。それをベースにAntonieが香りのサンプルを作り、平均1年以上をかけてひとつの香りが完成する。

BarbaraはGreen Spellを「非常にグリーン味の強い、陽気な香り」と表現している。付けたては、Suzyの言うとおり、トマトの葉を爪でぎゅっと潰したときのような、ザラザラとしたグリーンノート。トマトリーフとガルバナムのシャープな香りが引き立っていながらも、マンダリンオレンジやブラックカラントのジューシーさがフレッシュな印象を与える。キラキラとした夏の晴れた日、草木が茂るかわいらしい庭で、リラックスしたガーデンランチを愉しむ家族が脳裏に浮かぶ。行ったこともないのに、これはイタリアだ、と感じる(おそらくトマトとマンダリンのイメージからだと思うが、実際に使用されているマンダリンとカルバナムはイタリア産のようだ)。

少しするとフィグリーフのグリーン味を持ちながらもクリーミーなまろやかさが姿を現し、少しずつ香りがやわらかくなっていく。30分〜1時間すると、トマトの香りを残しながらも、ムスクやアンブロクサンのセンシュアルさが加わり、上品でやわらかなグリーンノートに落ち着く。このバランスは見事だ。


グリーンノートに充填を置いたフレグランスは案外バランスが難しい(とわたしは勝手に思っている)。単純に香りが持続せずに数時間で「香水を付け忘れた人」になってしまったり、ベースに残る香りが完全に違うものにすり替わっていたり(フローラルノートに取って代わられる、など)、最初に香ったあのフレッシュさがずっと続いてくれたら良いのに…と思うことも多い。Green Spellは、数時間経ってもほんのりと爽やかなグリーンが香るのに「野菜畑から来た人」みたいな印象を与えないのが素晴らしい。トマトの香りを「フレグランスとして」まといたいわたしたちの気持ちを完全に汲んでくれている。わたしは、こういうトマトフレグランスを探していたのだ。

なかなか他にない香りだが、あえて似ている「系統の」香りを挙げるならば、Frederic MalleのSynthetic Jungleと、DiptyqueのL’Ombre Dans L’Eau。Synthetic Jungleほどワイルドさはないので、もう少し上品にグリーンノートをまといたい、という人にもおすすめだ。L’Ombre Dans L’Eauにも似ているが、L’Ombre Dans L’Eauはフローラル味が強く出てくるので、その点が大きく異る。Green Spellは、トマト好きならぜひ試してほしい、ユニークなフレグランスだ。

50ml $150