Etat Libre d’Orange You Or Someone Like You

Fragrance captured by the heart
心で捉える香り

今年のロンドンは、春の訪れが遅かった。去年は2月頃からちらほら暖かい日が増えはじめ、3月末にはスプリングコートを着て公園でピクニックをしていたというのに、今年は4月末になっても冬のコートにマフラーをしないと寒かった。寒いだけならまだしも、曇りや雨の日が続き、寝ても起きても陽の光を拝めないことが、ここまでメンタルに影響するのかと驚くほど過酷だった。それが5月に入り、少しずつ暖かい日が増えてきた。まだまだ風が吹けば寒いし、ヒートテックも手放せないが、手袋やマフラーが要らなくなり、晴れの日が増え始めたことだけでもありがたい。ふと見渡せば、公園にはチューリップが咲き乱れ、裸だった木々は少しずつ緑になりはじめている。希望が息吹き始めている。

Etat Libre d’OrangeのYou Or Someone Like Youは、いまの季節にぴったりのフレグランスだ。生命力に溢れたグリーンノートと、ジューシーな果汁がしたたるようなシトラス。そしてそれをやわらかに包むフローラルノートのバランスが良い。この香りは、Chandler Burrの同名の著書にちなんでいる(※ちなみにChandler BurrはThe Perfect Sentという香水業界についての本も執筆している)。同書の主人公で、LA在住のイギリス人 Anne Rosenbaumをイメージして作られたこの香りは、ノートが公開されていない。それだけでなく、Chandler Burrは「If you need to know what it’s made of, don’t wear it; You is not for you(香りの構成を知りたいのなら、この香りはあなたに向いていない)」と挑戦的な(?)ステートメントまで残している。それは、香りをまとう人が心で感じた「フレグランスという完成品としての香り」を自由に楽しんでほしいという彼の願いの表れであり、本来フレグランスのあるべき姿なのかもしれない。

ブランド側が公式にノートを公開していないので、Fregranticaに掲載されているノートがどこまで正確なのかは分からないが、スプレーして最初に感じるのは、ミントを始めとするグリーンノートだ。ちょっと生臭さにも似た青臭さと、ミントの清涼感。そしてグレープフルーツやレモンのような、苦みのあるシトラスが漂う。なんとも爽やかで、春夏にぴったりの香りだ。しばらくすると、フローラルノートが香り立ち始める。販売店のサイトによっては「ジャスミン」との記載もあれば「ローズ」との記載もあるが、わたしの鼻が感知するところでは、これはローズだ。甘さと重さを兼ね揃えたパウダリーなローズの香りと、背景に潜むミントがやわらかに香る。

個人的には、トップのフレッシュなミント感は好みなのだが、ローズが強く香り始めるミドル〜ラストの香りは少し苦手だ。これは単にわたしがローズの香りが苦手だからなのだが、逆を言えばローズとミントの香りが好きな人ならばなかなか他にないユニークな香り立ちが響くかもしれない。グリーン味が強いフレグランスは苦手だけれど、春夏にぴったりな香りがほしい、という人は一度香りを試してみてほしい。

ちなみにわたしは以前ご紹介したニッチフレグランスのサブスクサービス Parfumadoを通してこの香りを知った。配達地域は限られているが、こちらの記事でディスカウントコードも紹介しているので、興味があればぜひ。

50ml €98 / 100ml €150