Lemony neroli wafting through a seaside town
海辺の街に漂うシトラスネロリ
FlorisのNeroli Voyageは、春から夏にかけて浴びるように付けたい香りだ。オープニングは潮風の中で香る、耳の横がキーンと痛くなりそうな搾りたてのレモンと、若々しい苦味を含んだ芳しいネロリ。行ったことはないが、シチリア島なんてきっとこんな香りがするんじゃないか、と思ったりする(最近ハマって観ていたドラマ The White Lotusに影響を受けすぎているのかもしれない)。マリンノート、と言うと一昔前のキムタクみたいなイメージがあるが、これはレモンとネロリの背景としてマリンノートが描かれているようなイメージで、シトラスのフレッシュな香りに奥行きを持たせる役割を担っている。
肌に馴染んでくるとフレッシュなレモンはその影を潜め、冷ややかなジャスミンの甘さとジンジャーやオークの土臭さが顔を出し、香りは一気に大人びる。ミドルノートからラストノートへの変化は緩やかだが、少しずつ且つ確実にムスクとアンバーのセンシュアルさが増す。ラストノートでは生ぬるい海風の潮気が強く残り、賑やかだった昼間の喧騒が嘘のようにしんと静まり返る夜の海辺を思わせる。
この香りは、本当に夏の空気に合う。ネロリの花自体は2〜3月に開花するとされていて、まったくもって夏の花ではないのに、なぜ太陽の下でこの香りを嗅ぐと夏の到来を感じさせるのだろう。初夏のロンドンで、まだ日陰は肌寒いものの太陽の光を浴びると肌がピリピリとするような、あの空気感の中で香るのが最高に良い。
そもそもこの香りの小分けを購入しようと思ったのも、暖かくなるとネロリの香りを纏う人が多くなり、完全にそれに影響されたことがきっかけだった。街を歩いていると、そこかしこでナチュラルなネロリの香りに出会う。それも、凝ったフレグランスに入っているネロリではなく、エッセンシャルオイルに近いナチュラルなネロリだ。人から香る分にはそのシンプルさが魅力的に感じるのだけれど、自分が付けるとなるとどうしても香りの奥行きを求めてしまう。かといって、ノートにネロリが含まれているもののさほど香らない、というのではつまらない。そんなわたしにちょうど良かったのが、Neroli Voyageだった。しっかりと香るネロリに少しひねりを加えた香りを探しているなら、一度香りを試してみて。
100ml £120 / 27,500yen