Seductive wild green and juicy cassis invites you to an urban jungle
野性味あふれるグリーンノートとジューシーなカシスが織りなす都会のジャングル
Synthetic Jungle。なんという名前だろうか、と思った。Syntheticとは「合成の」「人工の」という意味で、フレグランスのネーミングに冠するには違和感を覚える。のちにそれは合成香料がなければ自然の香りは再現できないのだ、というFrederic自身のメッセージ(ーというかむしろステートメントのような)に起因するものだと読んで納得した。この香りが生まれた背景は、わたしの大好きなSuzy NightingaleがPerfume Societyで記事にしているので参照していただきたいが、彼は深みがありユニークなフレグランスには合成香料が欠かせないと話している。わたしも、その考えに共感する。
でも、わたしがこのネーミングと香りから想像するのは、直接的に香料が合成であるという事実ではなく、「都会の喧騒の中にぽつんと存在する、本物のように見えるのに実は模造のジャングル」だ。これを纏うと、ロンドンという忙しい街にいてもみずみずしい草木や花、フルーツのエネルギッシュな香りに包まれる。まるでジャングルの中にいるように。
この香りに初めて出会ったのは、Harrods Salon de Parfums内のFrederic Malleだった。大人気のPortrait of a Ladyが刺さらず、その後あれこれ嗅がせてもらったものの、どれもしっくりこない。そろそろ店を出ようか、と思ったときに販売員がSynthetic Jungleをムエットに吹きかけた。即座にこれは、と思った。わたしが大好きなブラックカラントが贅沢に香る。なのに販売員は「ブラックカラント?入ってたっけ?えーと(カンペを読む)ああ、はいはい、入ってるわね」という感じで、これがブラックカラントフレグランスとして知られていないことに驚いた。そして、後日バジルも入っているということを知り、どうりで刺さったはずだ、と納得した。
付けたてはシャープでメタリック。キンキンと嗅覚を刺激するような強さがある。カシスのジューシーでツーンと鋭い香りに活気のあるグリーンノートが重なり、それと同時にスズランとヒヤシンスのフローラル感が熱をもって香る。パウダリーで、ほのかにおしろいを思わせるような香りが奥に潜んでいるけれど、それをかき消すほどのグリーンノートが力強い。まるで目の前で植物のキャバレーショーでも行われているかのような勢いで、さまざまな香りが入り混じって香る。これを「乱暴な香り」と取る人もいるかもしれない。実際にレビューを見てみると「粗い香り」「強すぎる」という声もちらほら見られる。その「粗さ」はドライダウンするにつれて落ち着きを見せ始め、雰囲気がワイルドなジャングルからエレガントなフローラルガーデンに移り変わる。少しずつイランイランのセンシュアルさや、オークモスのスモーキーさも加わり、香りに奥行きが出てくるが、ブラックカラントはいつまでも存在感を主張する。
この香りと系統が似ているように思うのは、DiptyqueのL’Ombre Dans L’Eauだ。昔好きで10mlサイズを持っていたのだけれど、これもブラックカラントのジューシーさを存分に楽しめる香り。第一印象で似ているな、と思ったものの、実際に香りを肌にのせて比べてみるとまったく違う。L’Ombre Dans L’Eauはブラックカラントとシトラスが爽やかに香り、音で言えば高音域のハ長調という印象で、キラキラとしてフレッシュな印象が長時間続く。Synthetic Jungleはスタートこそエナジェティックなものの、ドライダウンした香りは気だるそうな、且つ自信に満ちたマチュアなフランス人女性を思わせる(Emily in Parisのシルヴィからこの香りがしても違和感はない ―とはいえ、彼女はもっとヘビーな香りを好みそうではあるけれど)。
季節を問わずに使いやすいのも魅力のひとつ。ただ、付けたてはパワフルな香りなので、ジャングルに飲み込まれないよう気を付けて。
50ml £145 / 25,190yen