Sparkling brown sugar on top of Crème Brûlée
クリームブリュレの上でざらっと光るブラウンシュガー
街を歩いていたときのこと。ふわり、ふわりと甘い香りがした。美味しそうな甘い香りだが、どこかスッキリとしている。ふと見上げると、少し前を女性が歩いている。この人から香るのだろうか。信号待ちで彼女の隣に立ったとき、それは確信に変わった。
ロンドンでは、知らない人に「その服かわいいね、どこの?」「どこのマスカラ使ってるの?」なんて聞かれることは日常茶飯事だ。わたしもよく聞かれるし、自分も気になれば聞く。だから、迷わずに「すみません、とっても良い香りがするんですけど、どこのフレグランスを付けていますか?」と聞いた。女性は、パッと光が灯ったように笑顔になり、Maison Francis KurkdjianのGentle FluidityのGoldだと教えてくれた。続けて「ずっとBaccarat Rougeを愛用してたんだけど、いまみんな付けてるでしょ?これはBaccarat Rougeにも似ているけど、ちょっと違った味があって好きなの」と言うので、わたしもそれに大賛同し、しばし香りの話で盛り上がって別れた。ちょうどその数分前、友達がGentle FluidityのSilverを愛用していると聞いて使ってみたいと思ったところだったので、迷わずSilverとGoldのサンプルを取り寄せた。
Gentle FluidityのSilverとGoldは、まったく同じ香料を異なる分量で配合することで、ガラッと印象の異なる香りに仕上げた 対になる作品だ。同じ色の絵の具を使っても同じ絵画が出来上がらないように、また同じ楽器や音色で構成した曲がまったく異なったものとなるように、同じ香料を使っても同じ香りは出来ない。そんなこと分かりきっているはずなのに、このふたつの香りを嗅ぐと、ここまで違う香りに仕上がるのかと香りの奥深さを改めて思い知らされる。
Gentle Fluidity Goldは、甘い。色で言えば、ありきたりだが琥珀色だ。アンバー、ブラウンシュガー、スパイスが効いたクッキー。それでいてまとわりつくような甘ったるさがなく、スッキリしている。フレッシュでグリーン味のあるコリアンダーと、木の幹の香ばしく甘いウッディノート、そしていつまでも脳裏に響くピアノの低音のように妖艶に香り続けるムスクが、単調になりがちな香りに奥行きとスパイスを加えている。とは言っても、わたしがこれを付けているときにふと脳裏に浮かぶのは、クリームブリュレだ。クリームブリュレの上にざらざらとかけられたブラウンシュガー。ほんの少し焦げ目がついたような、苦味を含んだ甘み。
甘いキャラメルのような香りという点ではBaccarat Rougeと似ていないことはないが、香り立ちは大きく異なる。Baccarat Rougeはフローラルノートの華やかさと潮っぽさを含んでいるが、Gentle Fluidity Goldは爽やかさとウッディみを帯びている。街で出会った彼女の言うように、似ているようで、少し違うふたつの香り。ぜひどちらも肌の上で香りを体感してほしい。
70ml £110 : 100ml £165 / 27,720yen