Veronique Gabai HEART Eau de Parfum

When Perfume meets Aromatherapy
フレグランスとアロマセラピーが出会うとき

わたしがVeronique Gabaiを知ったのは、On the Scent Podcastだった。Veroniqueは、元ヴェラ・ウォンのCEOでもあり、20年以上に渡ってエスティローダーのフレグランス部門のトップとしても活躍したフランス人女性。彼女が2019年に自らの名を冠して立ち上げたのが、Veronique Gabai だ。生まれ育ったコート・ダジュールにインスピレーションを受けた彼女のフレグランスは、どれも天然由来香料で構成されており「個人の肌の上でユニークな香りに咲く」のが特徴。9種のフレグランスと、重ね付けすることで香りをパーソナライズできる3種の「ブースター」から成るコレクションに最近加わったのがAROMAシリーズだ。先述のPodcastでVeroniqueは「わたしのフレグランスは、あなたのパーソナリティを表現するためのもの。新しいAROMAシリーズは、あなたの気分を高めるためのもの」と話している。

新型コロナウイルスの流行で、いかに嗅覚がわたしたちの人生に大きな影響を与えているかが浮き彫りになった。嗅覚は人間の「勘」や「感情」「記憶」「経験」に強く紐付いている。これを失うことは孤独感に繋がり、うつ病を患う人も増えた。パンデミック中、Veroniqueは「いま沢山の人が苦しんでいる中で、わたしは何が出来るだろう」と考えたという。「この世はわからないことばかりだけど、香りなら作れる」と立ち上げたAROMAシリーズは、エッセンシャルオイルが脳に与えるアロマセラピー的効能と、フレグランスの「香りを楽しむ」というふたつの要素を組み合わせた新しいコンセプトだ。

香りは3種類。シトラスフローラルのHEART、ローズとパチュリのBODY、ラベンダーのSOUL。どれも脳科学により実際に気分の変化があると証明されている。商品ラインナップは100ml / 10mlのフレグランス、そしてロールオンのオイルの3種。ロールオンオイルに配合されているのは「香りのもと」となるエッセンシャルオイルのブレンドだが、これを単にアルコールに溶かしただけではどうしても「平凡な」香りになってしまうため、フレグランスとロールオンはブレンドを微妙に変えているのだとか。つまり、彼らのフレグランスは、アロマセラピーの作用を残しながらも、フレグランスとして纏って違和感がないよう調整されているのだ。3種の中でも、特にSOULはフレグランスとオイルでは香りの印象が異なった。フレグランスで感じるウッディさが、オイルではほとんど影を潜め、ラベンダーの主張が強まっている。確かにこれをそのままフレグランスにしてしまうと単調なラベンダーになってしまうので、香りとしての完成度を追求してブレンドを調整している、というのは納得だ。

3種の香りをムエットで試して、即座にピンときたのはHEARTだった。ベルガモット、レモン、グレープフルーツといった柑橘類に、シダーウッドやクラリセージ、クローブ、ジャスミンをプラスした香り。フレッシュなシトラスがメインで、太陽のような明るさと朗らかさを持ち合わせた香りでありながら、深く深く海に潜っていくうちに辺りがしんと静まり返るような落ち着きと奥行きがある。ベルガモットの主張が強く、どことなくアールグレイティーのような香りにも感じる。天然香料のみで作られているので、香りの持続性は短めと聞いていたが、肌の上でもとても美しく香る。付けたてのフレッシュな香りは一日のスタートにぴったりで、馴染んでいくにつれてジャスミンが上品に香り、最後はパリッとアイロンのかかったシャツのような清潔感が残る。フレッシュさとウッディノートの深み、そして華やかなフローラルのバランスが素晴らしい。時間が経っても柑橘類の香りが衰えないことにも驚いた。

販売員の方がシェアしてくれた実体験も興味深かった。彼はVeronique Gabaiの販売員としてLibertyとHarrodsに勤務しているのだが、Libertyのシフトの日はぐったり疲れるのに対して、Harrodsではさほど疲れを感じないことに気付いたという。なぜだろう、と考えたときにもしやこれでは…と思い当たったのがこのAROMAシリーズだったという。実はこのシリーズ、イギリスではHarrodsでしか手に入らない限定品なので、Libertyには置かれていない。「Harrodsではこの限定シリーズに惹かれるお客さまも多いので、説明するときにスプレーしたり、自分の気分転換としてもシュシュっとすることが多いんです。そのときにエッセンシャルオイルを吸入することで心や体に作用しているのではないかと思って」と言う。

100mlサイズのボトルのキャップの上部はセラミック製になっていて、ここにフレグランスのスプレーしておくと、ルームディフューザーとして使えるというのもユニーク。箱にはQRコードが付いており、スキャンするとその香りに対応したメディテーションに導いてくれる。ただのフレグランスで終わらずに、ライフスタイルにも寄り添う香りというのが嬉しい。

このHEARTという香りは、喉のチャクラに対応しているそうだ。この香りを欲するということは、自分を表現しきれていないとか、言いたいことが言えていないということだ、と言われて思い当たる節があるなとピンときた。わたしは幼い頃、喉が詰まるような感じがあって、何度も医者にかかった。喉が苦しいと訴えても医者は気のせいだと主張した。それがストレスによるヒステリー球だったというのが分かったのは、何十年も後のことだった。スピリチュアルな信念があるわけではないが、このヒステリー球も喉のチャクラが詰まっているとなりやすい、と聞く。本音を押し殺す癖がある性格だからこそ、この香りが人生に必要だと感じたので、Harrodsがカード会員に向けて10%オフセールをしていたときに、店頭に足を運んだ。その日の販売員は10mlサイズの存在を知らず、見当たらないので売り切れたと匙を投げたため、残念ながら手に入らなかった。その後も、100ml £150、10ml £45という謎の価格帯なので、どうせなら100mlを買うか…という点でいまだ悩んでいる。

10ml £45 : 100ml £150