Enjoying spicy vanilla coffee holding a pretty bouquet
香り高いブーケを膝に、スパイスたっぷりのバニラコーヒーを楽しむ午後
Astrophil & Stellaは、イタリアのニッチフレグランスブランドだ。ブランド自体はイタリア生まれだが、スペイン、フランス、ドバイなど様々な国の調香師と組んでいて、香りに多様性を与えている。Astrophil & Stellaは、パンデミック中に誕生した。未知のウイルスに世界が怯える中、彼らは「希望と愛を与えるフレグランスを創りたかった」のだと言う。ブランド名からAstrophilとStellaが立ち上げたブランドかと思われがちだが、実はこれは「Star Lover(星の恋人)」という意味で、16世紀の詩にちなんでいるそうだ。ブランドが最初に発表した6つの香りは、すべてこの詩の2人の登場人物の間の恋物語をインスピレーションに創られている。その後にローンチした4つの香りは、彼らがフレグランスを通して叶えたいシーンを表現している。すべての原料はイタリア産で、美しいボトルはヴェネチアで創られているそうだ。
Paris Chériを付けた瞬間に香るのは、カルダモンやシナモンのスパイシーさと、バニラやココアに包まれたコーヒーだ。ほのかな柑橘の香りもあわさって、甘さもありながら爽やかなオープニングが心地良い。香りが肌に馴染むと、ヘリオトロープやスズラン、ヘディオン(ジャスミンなどから採れる香料で、個人的な印象ではアッパークラスの女性が付けていそうなフローラル調の香りに感じる)が香り立ちはじめる。パリのカフェのテラス席に、湯気の上がる甘いコーヒーが置かれていて、膝に小さいながらも香り高い花束を抱いてコーヒーを楽しんでいるパリジェンヌが思い浮かぶ。
この、甘いスパイシーバニラコーヒー+フローラルの組み合わせは、ある記憶を呼び覚ました。この香り…小さい頃に香ったことがある、と。あれこれ記憶の引き出しを開けて思い出したのは、香り付きの消しゴムだった。チョコレートかなにかの香りの消しゴムで、甘さとプラスチックのような、ゴムのような、独特のツンとする匂いが混ざっていた。Paris Chériのミドルノートにも、どこかプラスチックっぽいような独特の香りが隠れている。まったくもって嫌なニオイということはなく、むしろ香りを分解するとフローラルの香りだな、と分かるのだが、ふと香ったときに消しゴムを思い出すのだ。
香りは数時間、しっかりと香り続ける。今日はコートを着る前に2プッシュ手首に付けただけだったが、コートを着ても日中ふわふわと香った。特に、寒い日につけると冷たい空気と心地よい甘さのバランスが良い。5−6時間ほどすると、フローラルが影を潜め、やわらかなアンバー調の甘みだけが肌に残る。消しゴム感は、もうない。ミドルノートの香り立ちも好きなのだが、このラストノートのカシミヤのセーターを思わせるような柔らかで温かい香り方も最高に良い。
グルマン系の香りが好きなひとに、ぜひ試してもらいたい香りだ。
50ml €160