Unexpected take on a coffee fragrance
予想を遥かに超える 新しいコーヒーフレグランス
まだ冬の寒い日、ロンドンのホテルのラウンジで、State of Mindの創設者であるCatherineに会った。黒いワンピースに身を包んだ彼女からは、びっくりするほど良い香りがした。なにをつけているの、と聞いたら「夏に出る新作なんだけど」とバッグから小さなボトルを取り出した。嗅がせてもらうと、なんの香りなんだかさっぱり分からないが、とにかく良い香りがする。センシュアルで、あたたかみがあって、でも甘みはさほど感じない。あまりに脳が混乱したので、自分の嗅覚の鈍さを恥じつつ「なんの香りなの?」と聞くと、彼女は「コーヒー」と言った。
わたしも手首に少し付けさせてもらったが、これはわたしの想像するコーヒーフレグランスとはまったく違った。付けてすぐに「あ、はいはいコーヒーね!」なんていう単純なものではなかった。むしろ「コーヒーはどこよ?」と鼻で探してもなかなか見つからなかった。香りが消えてほしくなくて、夜のシャワーをスキップしたのに、翌朝には香りは消えていた。でも、この香りをはじめて香ったときの衝撃があまりに大きくて、それから毎日のように「あぁ、良い香りだったなぁ」と余韻に浸った。不思議なことに、思い出すのは自分が付けた香りではなく、Catherineから香ったあの香りだった。Catherineの凛としたかっこよさと、それでいて少しプレイフルなチャーミングさ、そしてこのセンシュアルな香りが素晴らしいバランスでわたしを魅了した。
4月の頭、ミラノで行われたニッチフレグランスの展示会 Esxenceで、State of Mindのブースを訪れた。ブースは大反響で、初日は人が絶え間なく集まっていたので、2日目にもう一度足を運んだ。冬のあの日にCatherineが付けていたフレグランスは、Fanfarone Italianoという新作で、ブースの中央に並べられていた。State of Mindはこれまでお茶をテーマにしたフレグランスのコレクションを打ち出してきていて、そのたびに同じ風味を付けた茶葉を発売しているが、今回はFanfarone Italianoの発売と同時に、この香りをイメージしたコーヒーを発売した。ブースへ訪れるとCatherineが「コーヒーはいかが?」と、Fanfarone Italianoのコーヒーを振る舞ってくれたのだが、これがとても美味しかった。ハニー、バニラ、ココアで香り付けしたこのコーヒーは、酸味が少なく、深みがあった。甘みはないのに、デザートを食べたような満足感も得られて、わんこそば形式で3杯くらい頂いた気がする。
帰り際、あまりにこの香りが好きだとうるさいわたしに、CatherineがFanfarone Italianoの香りが付いた扇子と小さなサンプルボトルをくれた。以来、1週間ほど毎日この香りをまとっていたら、少しずつ香りがほどけてきた。
付けた直後に香るのは、軽やかなネロリと、苦みがありながらもジューシーなオレンジピール。ノートにはカシスとカシスの葉もあるのだが、お決まりのカシスっぽさは感じず、バックグラウンドで香りにほのかなシャープさをプラスしているような印象だ。少しすると、コーヒーとチョコレートが香り始める。甘くないビターチョコレートのような、チョコレートの風味だけが感じられるような。ここでも、単純なコーヒー×チョコレートの香りに落ち着かずにどこか背後にシャープなフルーティさが残るのは、カシスの存在感があるからだろうか。さらに時間が経つと、香りは少し埃っぽく落ち着く。ここで感じられるのは、パウダリーさを含んだココアとコニャック、そしてセンシュアルなアンバー。
こうして香りを分解すると、香ばしさのあるグルマン系の香りのように聞こえてしまうのだが、それがまったく違う。ふわりと漂うシアージュからは、活力を感じられるフルーティさとどこか物憂げでセンシュアルな大人っぽさが同時に香る。コーヒーもココアもチョコレートも、それだけが存在感を放っているわけではなくて、すべてが溶け込んでひとつの未知の香りを生み出している。以前フレグランスのワークショップでSarahが言っていたように「なんの香りか言い当てられないフレグランスこそが、完成されたフレグランスだと思うのよ」という言葉を思い出す。
この香りは、コーヒーフレグランスのイメージを覆す香りだ。まさにコーヒーらしいコーヒーの香りを探しているひとは驚くかもしれないが、この「コーヒーとすぐに分からないコーヒーの香りをまとっているカッコ良さ」が粋なのだ。センシュアルな香りではあるが、仕事にも、遊びに行く日にも、デートにも使える、万能な香りでもある。ミラノから帰ってきて以来、毎日のように付けているが、飽きることもない。友達に「それなんの香り?どこの?」と聞かれることも多い。サンプルボトルが底尽きるのを恐れて、浴びるようには付けていないのだが、そうすれば道を歩いている他人にも「どこのフレグランス?」と聞かれるだろうという自信もある。それほどにintoxicating ー夢中にさせる香り。
現在、公式サイトで販売されているのは100mlのフルサイズのみ。1.5mlのサンプルは単体では販売しておらず、ディスカバリーセットに含まれている。20mlサイズが2個入ったトラベルセットは6月、10mlのミニサイズは7月に発売される予定だ。この香りが気になる方でまだState of Mindの香りを試したことがないという人は、ぜひ他の香りも併せて体感してみてほしい。
100ml €255