Perfumer H MARYLEBONE

British nature seen through the nose of Lyn Harris
リン・ハリスの創るイギリスの自然を香る

ロンドンのMarylebone地区に、Perfumer Hのショップがある。中心地ながらさほど賑わしくない立地にあるこのブティックは、建築家 Maria Speakeによってデザインされた。くすみカラーの壁紙や重厚な家具に彩られ、ほのかにキャンドルの香りが漂う店内の戸棚には、規則正しく商品が並ぶ。まるで、香りの図書館のような雰囲気だ。ところどころに置かれたMichael Ruhによる手吹きのガラスが、インテリアのアクセントになっている。

創設者のLyn Harrisは、2015年にPerfumer Hを立ち上げた。自然に囲まれて育った彼女にとって、自然界に存在する素材の香りを創造性と結びつけて「身にまとう」香りに仕上げることは、ある種「義務」のようなものだという。彼女は「香りの中心となる素材を選ぶプロセスはとても大切。アイデアが生まれ、そして香る。この時点ではアイデアはとても鮮明で、でも一日置いてしまったら消えてしまう。大切なのは、この熱量。ときには、アイデアが一体どこから湧いてきたのか分からないことだってある」と語っている。

店内では、まずシトラス系、フローラル系、ウッディ系、アンバー系の4つの代表的な香りを嗅がせてもらう。その中でどれが好みだったかを伝えると、それに応じておすすめの香りを提案してもらえるという流れになっている。全部で約40種くらいの香りがあるので、こうして好みを絞る方法は効率的だ。また「どんな香りが好きですか?」と聞いてもイメージが言語化できないひとも多いため、こうして実際に香りを嗅いでもらって好みの系統を絞る、というのは、双方にとっても心地よいコミュニケーションの方法だ。

フレグランスは50ml、100mlの2サイズ展開。50mlサイズは通常のブラックボトル、100mlサイズはあたたかみのある形とアースカラーがスタイリッシュな手吹きガラス仕様だ。キャンドルも同じく、ミニサイズはシンプルなブラックの容器の175g、大きいサイズは手吹きガラス容器に入った325gとなっている。また、100mlサイズのフレグランスと325gのキャンドルは、どちらもリフィル対応となっている。

店内には小さな小窓があり、そこからラボスペースがちらりと覗く。そこには所狭しと香料が並び、机の上にはスケールとノートブックが置かれていた。「ここでLynに習って香料をブレンドしたりもするの」と、販売員のImoが教えてくれた。「調香はとても奥が深くて難しいけど、Lynから色々と学んでいるんだ」と、続けた。

今年の春、友人の紹介を受けて、Lynと本部のメンバー(と、Lynの愛犬)にお会いする機会があった。Lynのカジュアルでハンサムなスタイルも本当にカッコよかったし、扉を開けても店内から出ていかない愛犬のポップもかわいかったのだが、一番強く感じたのは、なんと強いブランド愛で繋がったチームなのだろう、ということだ。ひとりひとりがブランドのことを心から大切に思っているのだな、と感じられたし、皆が同じ波動を持った空間でブランドを動かすというのは、どれほどインスパイリングで楽しいのだろうと思った。

さて、Perfumer Hのフレグランスはどんな香りなのだろう。

わたしの大好きな香りについては改めて記事にしたいのだが、全体的に「意外性のある香りが多かった」という印象だった。たとえば「Pear」という香りは、名前から想像する洋梨のフルーティな香りではなく、ハーバルさの中に石鹸のような清潔感を感じる上品な香りだ。「Suede」は、レザーのザラザラとした感じを思い浮かべたものの、実際にはびっくりするほど可愛らしいホワイトフローラルの香りだったので面食らった。人気の「Ink」は万年筆が紙に残したインクを思い出す香りで、その名前に忠実ではあるのだが、そのアンティーク家具を思わせるようなウッディノートは、インク(液体)というよりも鉛筆(ドライ)な印象を受ける。

どの香りも非常にまとまりが良く、どこか儚い。すべての香りを試したわけではないのでなんとも言えないのだが、わたしが好きな香りは肌の上では持って2〜3時間というところで、その儚さがまた上品なのだ。

フレグランスというのは、調香師の世界観を通して自分の知らなかった世界を楽しむことができる贅沢なツールだと思っている。素材そのものの香りだけを楽しむのなら、エッセンシャルオイルで充分ではないか。わたしたちがフレグランスを求めるのは、調香師の創造性や人生観、世界観などを通して新たな世界を発見したり、もしくは昔の記憶を喚起したいからだ。Perfumer Hは、Lynの世界観を通して、わたしたちにイギリスの豊かな自然を楽しむ機会を与えてくれる。彼女の嗅覚センスと、豊かな創造性を作り上げたヨークシャーは、どんな土地なのだろうか。