intoxicating vanilla in a barber shop
マスキュリンなバニラに魅了される
わたしは、アンバーの香りが好きだ。アンバーは樹脂ではあるが、今日フレグランスに使われているアンバーは樹脂から抽出されたものではなく香料を組み合わせて香りを創り上げたアコードと呼ばれるもので、それはブランドによって異なる。「空の絵を描いてください」と言われて真っ青な晴天を描く人もいれば、夕暮れの物悲しい空を描く人もいるように、アンバーという香りは実態があるようでない。その他に、マッコウクジラの結石から採れるアンバーグリスという香料もあり、こちらは甘さに加えて海の塩気を感じさせる香りと言われている(実物を香ったことがないので自分の言葉で表現できないけれど)。ただこのアンバーグリスは非常に希少で高価なので、こちらもアコードが使われていることが多い。アンバーの香りのフレグランスを試すときは、そのブランド独自の解釈が挟まるということを忘れてはいけない。アンバーと一言に言っても、微妙に異なるのだ。
Grand Soirは、アンバー好きなら一度は嗅げ、と言われるほど有名な香り。とは言え、ちゃんと肌に付けて生活してみなければ分からない、と小分けを購入した。最初の印象は、ハンサムなアンバーバニラ。香りのレシピからは、こんなマスキュリンさは想像していなかった。瞬間的にアフターシェーブのような、昔ながらのバーバーショップのような、ツンとしたマスキュリニティが顔を出し、インセンスのようなスモーキーでミステリアスな香りがそれを飲み込むように香る。
最初に香るのはメンズ向けにマーケティングされるフレグランスにも多く含まれていることが多いラベンダーのように思うのだが、スモーキーさについては香りのレシピを見てもどれに該当するのかわからない。確かにインセンスのような香りがするのに、それらしきものがない。と思っていたら、Maison Francis Kurkdjianはノートを細かく公開しないことで知られていると聞いて納得した。書かれていなくても、鼻で感じる香りがあればそれで良いと個人に委ねられているのだ。
時間が経って肌に馴染むと、体温が高まったかのようにほかほかと香る。好みによると思うけれど、個人的には真夏には付けないだろうと思う。わたしがこの香りをはじめて付けたのは8月だったが、12月のいまのほうが香りが引き立つ。わたしは寒い日でもカフェのテラス席に座るのが好きなのだが、この香りを纏っていると不思議な温かみを感じる。体は寒いのに、心に火が灯る。あたたかい手をつないでいるような、ほっこりとした安心感。甘いグルマン系の香りなので、女性のファンも多いと思うけれど、男性が付けていたら思わずそのセンスの良さに振り返ってしまうような洒落っ気がある。ただ甘いだけじゃない、ひねりのある少しマスキュリンなアンバーを探しているなら、ぜひ一度試して欲しい香り。
And finally, she realized what was missing. A strong, smooth core, a warm amber blend that would provide a deep connection to the soul. Love.
― Jan Moran, Scent of Triumph
70ml £165